憐みの3章 映画感想 (ネタバレ含む) ②

第二章 RMFは飛んでいる

 

(あらすじ)

 

主人公は警察官のダニエル。海洋学者の妻リズが遭難して行方不明になってからというもの憔悴し、上司や同僚から心配されている。友人で同僚のニールとはお互い夫婦ぐるみで仲が良く、落ち込みの激しいダニエルは彼にたびたびリズについて相談していた。ある日、リズが見つかったという連絡があり、ようやく再開したのもつかの間、今までと様子が違う妻に違和感を覚え、ある日ダニエルはくるってしまう。

 

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次の章である「RMFは飛んでいる」は行方不明になった妻を待つダニエルをメインに据えて展開。警察官のダニエルは妻が失踪してからというもの様子がおかしく、上司からそろそろ限界だと言われるほどリズの失踪にダメージを受けていた。友人で同僚のニールは彼を気遣っていた。ダニエルは自分を支えてくれるニールに深く感謝し、彼と彼の妻をリズがいたころと同じようにディナーに誘う。

 

ここで、リズがチョコレート嫌いであることがニールの妻マーサの思い出で語られる。とても仲の良い4人組、ニールたちは夫婦そろってリズは帰ってくると励ます。その後、妻のリズが見つかったとの連絡が入り、喜ぶ一同。しかし、妻のリズがどこかおかしい。

 

容姿はどう見ても妻のリズ。けれども帰ってきて早々、飼い猫に威嚇されたり、嫌いだったはずのチョコレートケーキを食べたり、靴が合わないと言い出す妻にダニエルは違和感を覚えていく。夫婦の共同口座からお金を全額移動させたり、義理の父であるジョージにも注意されるほどダニエルの態度は悪化していく。

 

再会を待ちわびておきながら、だんだん素っ気なくなるダニエルに妊娠を告げるリズ。とうとうダニエルはリズに「出ていけ」と言ってしまう。夫婦関係の気まずさは仕事にも影響し、信号無視をした若者二人を取り押さえる途中、ダニエルは拳銃でそのうちの一人の手を撃ち、さらには出血がひどいその手にかじりついて(血をなめとろうとして?)しまう。あまりのおかしさにニールも動揺。ダニエルは休職状態になった。

 

精神科医からは軽度の妄想が入っていると言われたが、肝心のダニエルは妻のリズが姿が同じだけの別人だという考えを強くし、彼女が与える食事を拒むようになっていた。

 

対して妻のリズは献身的で、自分に冷たいダニエルを必死に支えようとしては無下に扱われる毎日。心配してやってきた父のジョージもダニエルへの非難を強めている。しかし、夫を悪く言うのはいくら父でも許せないと咎めるリズ。ここでリズは「人間が動物で、動物が人間」という話をする。自分が好きなラム肉は犬たちが食べるから口にすることはできず、代わりに犬が食べないチョコレートを食べて生き延びたという。あまりにも不思議な話。リズは毎日減っていくものより、いつもあるものを食べるべきだと考えるようになったと語り、ダニエルへの献身を続ける決意を固める。

 

一方、ダニエルはリズに対する疑いが強まるために、彼女に無茶苦茶な要求をするようになっていた。それはどの指を切り落としてもいいから、それとカリフラワーを調理して自分に出せというもの。無茶苦茶な指示にさすがのリズも困惑し、お腹の子やこれからのことを考えた末、とうとう自分の左の親指を切り落としてしまう。しばらくの気絶、なんとか調理したものをダニエルに差し出すも、ダニエルはリズの異常な献身を見て、自分の疑念が間違いではないと確信する。

 

リズがいないある日、自分を尋ねてきた精神科医にリズについて語るダニエル。「自分の指を本当に調理して出してきた」と話し、その料理を「気持ち悪いから猫にやった。彼女はおかしい」と吐露する。さらには「朝、リズは自分で自分の顔と腹を殴っていた」とまで話すダニエル。非常識な内容に困惑を隠せない医師。そのころリズは婦人科に行き、診察を受けていた。顔には痣。リズが流産したことが判明するとともに、女医が怪我の原因をやんわりと聞く。傷はダニエルから受けたと答えるリズ。それでもダニエルは優しいと話すが、完全にDV被害者。見ていて辛かった。

 

父のジョージからの電話に数日姿を消すと伝え、涙を流しながら家に帰ると、ダニエルがまたしてもリズに要求する。足か肝臓を調理しろと言い放つダニエル。今、目の前にいる妻のリズは偽物だと思っているために容赦がない。しばらく後、リズは椅子の上でぐったりしていた。流れる血、リズは死んでいた。それを見ても何も思わないダニエル。ドアを叩く音がして出るとそこにはダニエルが待ち望んだ妻のリズが笑顔でいる。ダニエルはその妻と抱きしめ合い、第二章のエンディングが入って終わる。

 

この章では、ダニエルと妻のリズを中心に展開していくわけだけれど、帰ってきたリズが今までのリズと違うことに違和感を覚えたダニエルがどんどん辛辣な態度になっていく。では帰ってきた方のリズはひどい人間かというとそうでもない。たしかにチョコレートを食べるし、細かい描写から今までのリズと異なっている部分があるのは間違いない。しかし、リズのダニエルに対する献身というものはしっかりしており、それこそ自分の体を切り落とすというのは彼女の中には間違いなくダニエルへの愛情があったのだと思う。ただ、ダニエルからすれば自分が愛した妻と相いれない部分がある存在を本当に妻だと思っていいのかという葛藤は自然なことのように見えるから、この話はどう受け取っていいか分からない。

 

この章では冒頭からダニエルのスマートフォンにノイズ交じりの電話が何度も届く。最初はだれか分からずダニエルは困惑するわけだが、後半これは本物のリズからの連絡だと考える様になり、実際この章のエンディングにはダニエルの元に妻のリズが帰ってくるのだ。最初に帰ってきたリズと最後に帰ってきたリズ。どちらが本物だったのだろうか。ダニエルが受け入れたのは最後に帰ってきたリズだった。

 

一つ、ヒントになるとすれば途中、最初に帰ってきたリズが語る「人間は動物で、動物が人間だった」という発言だろうか。

 

しかし、遭難から帰ってきたあと、突然妊娠を告げるリズにダニエルは自分の疑念を一気に強めていき、ここで戻れないくらい二人はすれ違っていた。ダニエルの心の支えは帰ってきたリズではなく、ノイズ交じりの連絡をキャッチするスマートフォンだった。そのスマートフォンも消え、ダニエルはさらに精神状態を悪化させていくのだが、なんというか非現実的なことの連続で周囲の人間はダニエルに寄り添えなくなっていく。

 

ダニエルが休職してからはリズのお世話が目立つようになっていくが、ダニエルはそんなリズに冷たい。ここでの象徴的な行動はダニエルはリズが与える食事を拒むようになっていたこと。美味しそうな手料理もダニエルは断固としてとらない。そして、リズに体を切り取るような無茶苦茶な指示を出すようになっていく。それから最初に帰ってきたリズは肝臓を取り出すために死に、ダニエルは最後に帰ってきたリズと抱き合うのだが、この章のエンディングではラストに犬たちが人間のように暮らす映像が流れる。リズの言った通り「人間が動物で、動物が人間だった」のだ。

 

帰ってきたリズの愛情深い献身も受け取る方にその余地がなければ意味がない。ダニエルの求めたリズは今までの自分が知っているチョコレートが嫌いなリズだった。妊娠といった喜ばしい出来事も、ダニエルにとっては得体のしれない恐怖だったのだろう。正直、リズには指を切り落とせと言われた時点で逃げてほしかったなと思う。ダニエルもいなくなった妻を心から思うという意味では深い愛情があったのだろうが、二人の行き違いを見ていると、愛情というものについて考えたくなる章だった。

 

キライだったものを食べる自分を受け入れた、帰ってきたリズ。好きなラム肉は食べることはできなくて、と語っていたが、このラム肉とチョコレートは何か別の意味を含んでいたのだろうか。この章のリズはダニエルのひどい扱いにも耐えるという意味で忍耐強く、ダニエルに体を分け与えるという意味で献身的だが、その根っこにある愛情はどこか盲目的。自分の体を守るどころか率先して傷つけてしまうリズの振るまいも第一章と同じく、服従する人生に知らず縛られているのではないかと見てしまう。

 

リズとダニエルはお互いに何を見ていたのか。ダニエルの辛辣な態度に傷ついては涙を零すリズと、リズが帰って来てからどんどん表情が消えていくダニエル。役者さんの演技が見事な章だった。