憐みの3章 映画感想 (ネタバレ含む) ③

憐みの3章

 

第三章 「RMFはサンドイッチを食べる」

 

(あらすじ)

 

エミリーとアンドリューはよく分からないカルト教団の一員。教団が探す不思議な力を持った女性を見つけるため、二人はモーテルに泊まりながら、双子の片割れがいない女性を探し出す毎日。二人が所属しているのはカルトの長であるオミとアカの二人以外と性行為をしてはいけないという見るに怪しいところで、また二人の涙が混ざった水以外飲んではいけなかった。しかし、女性探しをするうちにエミリーはこの禁を不本意にも破ってしまう。

 

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この章ではエネルギッシュで行動的なエミリーと冷静なアンドリューを中心に話が展開していく。よく分からないカルト教団に所属する二人は教団の主であるオミという男性とアカという女性が運営していた。

 

教団が探しているのは奇跡を起こす女性。条件は身体的な特徴以外で双子の女性ですでに片割れが死んでいること。エミリーはアナという女性の身体的な特徴をチェックしてから彼女に死体を甦らせるよう指示する。できると答えるアナだが結局できず。探していた女性は別にいるということで一旦モーテルに戻る二人。勝手にいなくなるエミリーに苦言を呈すアンドリュー。エミリーには夫と娘がいて、彼女は家族を置き去りにしたまま、カルト教団に身を置いていた。

 

ところ変わって教団では太めの女性がオミに私は教団の主である二人以外と性的な関係をもっていないと言っている。この教団ではオミとアカが絶対的な権力者。二人が課したルールに従って生活することこそ、教団の人間の喜びだった。エミリーとアンドリューが教団に戻ってきたところで、太めの女性が高温のサウナに入れられる。これは教団が信者に行う検査で、アカが女性の汗をなめて彼女の無実を宣言。太めの女性はこうして教団の生活に戻ることができた。

 

一方でエミリーとアンドリューはオミとアカの信頼も厚く、覚えめでたい様子が描写される。ご褒美に二人はオミとアカの好きな方と性行為ができることに。普通にヤバイ。エミリーは教団の一員として奇跡を起こす女性を探すことに熱心だ。新たに資料とお金をもらった二人はまたしても教団の外に足を運ぶ。

 

レストランらしき場所で食事をとる二人。食事はともかく飲み物は水。教団ではオミとアカの涙が混じった水以外飲んではいけない。外でも教団のルールに忠実な二人にレベッカという女性が話しかける。彼女によれば自分の妹ルースこそ、エミリーたちが探す奇跡を起こす女性だという。連絡先を渡すもアンドリューは彼女に否定的。とにかく資料にあった女性を訪ねるが、その女性はすでに亡くなっていた。

 

いきなり手がかりが消えてしまったことに頭が痛い二人。エミリーはエミリーで娘の寝室に自分なりに愛情を示そうと教団の水を使って祝福している。帰りにばったり夫と娘に再開するエミリー。娘に夕食を共にしないかと誘われるがやんわりと断る。

 

モーテルではアンドリューが熱をだしていた。相棒を気遣い、薬と体温計をエミリーが買いに行くと、夫もドラッグストアに用事があったのかまたしても再会する。娘が足を痛めたと聞いて心配になったエミリーは夜、夫と娘のもとに顔を出すが、この選択がエミリーの運命を捻じ曲げる。

 

夫の方はエミリーに未練があり、何かと引き留めあろうことか彼女にお酒をすすめる。エミリーに因んだオリジナルカクテルだと言うが、エミリーは教団のルールがあるため、水以外飲めない。しかし、エミリーは夫に強く言えず、夫は夫で彼女が飲むお酒に睡眠薬を混ぜている。何も知らずにお酒を飲むエミリー。彼女は一夜で教団のルールである、水以外飲まないというものと、オミとアカ以外と性行為してはいけないという禁を破ってしまう。一夜明けて何があったのかを悟るとエミリーは泣きながらシャワー室で体を洗う。着替えて家を出ると、アンドリューとオミ、アカの三人が待ち構えていた。

 

教団に帰ると、エミリーは高温のサウナに入れられることに。ここで体内の「汚染された」体液を出し切らなくては教団にはいられない。しかし、エミリーの結果は追放。オミとアカは最初のやさしさはそのままルールを破ったエミリーに用はないと教団の外に追い出し、彼女にわずかばかりの手切れ金を渡すだけ。対するエミリーは泣きじゃくり、二人からもう一度関心を得ようと必死に叫んでいた。

 

全てを失くしたエミリーはレベッカと連絡を取る。レベッカが自分の昔話を聞かせ、酔って空のプールに頭をぶつけたが、ルースのおかげで一命をとりとめたのだと話す。しかし、教団が探す、奇跡を起こす女性は双子の片割れ。どちらか一方が死んでいないとおかしい。とにかくルースに会うと決めたエミリーは適当な犬の足をナイフで傷つけた。ルースは獣医師。犬を口実に彼女に近づき、とにかくルースが奇跡を起こす女性か確かめる。病院でルースが手当てをした犬の足を確認すると切り傷はあっという間に治っていた。ここでエミリーはルースこそ教団が探してる女性で間違いないと確信する。

 

ここでレベッカからまた連絡。猛スピードで車を走らせて彼女の元へ行くエミリー。ちなみにエミリーの運転の荒さはこの章の冒頭から描写されている。レベッカは奇跡を起こす女性の条件を満たすいい方法を思いついたと、水着姿でエミリーを迎える。嫌な予感がしたエミリーは急いでレベッカのあとを追うが、彼女は庭にある空のプールに勢いよく飛び込み、全身を強かに打ち付け絶命した。一瞬呆然とするも、エミリーはすぐにルースのもとに向かう。

 

犬のお礼で彼女と二人きりになり、隙を見て薬を打ち込んで誘拐。この時にルースの身体的な特徴を確認し、さらに安置所でルースが触れた遺体(男性)が蘇るのを見て、エミリーは歓喜のダンスを踊る。ルースがいれば教団に戻れると考えたエミリーは猛スピードで車道を走る。途中で目を覚ましたルースに水をあげようと視線を前面から外した瞬間、対向車とぶつかりかけ、エミリーたちが乗った車は壁にぶつかってしまった。幸い運転手のエミリーはエアバッグのおかげで一命をとりとめたが、後ろにいたルースは車外に放り出され死亡。奇跡を起こす女性も自分の命は甦らせることはできず、エミリーは教団に戻る方法を永遠に失くしてエンディング。

 

クレジットと一緒にどこかのサンドイッチショップが映し出され、白いシャツを着た男性が食事をしている。ルースが蘇らせた男性はのんびりサンドイッチを注文し、それにケチャップをかけようとしてシャツに跳ねてしまう。ハンカチでシャツに飛び散ったケチャップを拭う時、胸元のポケットにRMFという刺繍があることが判明。ここで章タイトルが回収されて本編は終了する。

 

この章ではエネルギッシュで行動的なエミリーと冷静なアンドリューを軸に話が進んでいくが、エミリーには夫と娘がいることから彼女がいつかは教団の禁を破ることが予見されている。アンドリューはエミリーに家族がいることを知っており、秘密にするから会いに行けばいいとまで言ってくれる。しかし、二人は教団の忠実な信者で、教団こそ二人の故郷。アンドリューと比べて直感的な行動をとりがちなエミリーは夫の頼みを断れず油断した矢先に全てを失ってしまった。

 

教団を追放されるときのエミリーは子供のように泣きじゃくり、オミとアカの関心を得ようと必死に縋る様は子供のよう。一見、気が強く自立しているように見えたエミリーも教団という世界に依存していたことが伺える描写だ。アカが夫や娘と一緒に暮らす人生もいいというようなことをエミリーに言い放つが、もしかしたら妻や母親に縛られる自分が嫌でエミリーは家族を捨てたのかもしれない。

 

教団から追放されたあともエミリーは忠実に教えを守っていた。むしろ禁を破ってからの方がよりいっそう教団に対して献身的だったかもしれない。追放された場所に戻ろうとルースを見つけたまではいいが、最後は彼女を自分の荒い運転が原因で死なせてしまう。エミリ―の戻りたい場所へ二度と戻れなくなって終わったラスト。

 

この映画ではすべての章を通して、アンバランスな人間関係が描写される。何らかのルールを敷く側とそれに服従する側がおり、彼らは互いに影響し合っているように見えるが、ルールを敷く側には常に代わりがいる。支配者である誰かに従う誰か。ルールを破った服従する側はいつも過剰なまでの献身や忠実さで支配者の関心を得ようとみじめなくらいボロボロになりながら縋り、だいたい失敗する。

 

第一章のロバートはレイモンドの元に戻ったが、彼の人生はほとんどがレイモンドの管理で成り立っており、自分でお酒の一つも選べないくらいロバートの人間性は脆かった。そしてロバートがレイモンドに従わないとなるや、リタという女性が代わりとしてレイモンドに管理されていたのだ。

 

第二章では帰ってきたリズはダニエルの指示に従って指を切り落としたり彼に献身的になればなるほど、ダニエルはリズを遠ざける。妻の帰還を切望しているダニエルは自分が知っている妻の帰りを信じてチョコレートの好きなリズを偽物だとして、仕事すらまともにできないほどメンタルを病んだ。最後は帰ってきたリズが肝臓を取り出して死んでしまうが、ダニエルは最後に帰ってきたリズと抱擁を交わす。最初に帰ってきたリズはダニエルが望んだリズにはなれなかった。

 

第三章は言うまでもなくエミリーだ。カルト教団という分かりやすいものが、彼女のエネルギッシュな振る舞いも行動的な側面も全て滑稽なものにしている。どれだけエミリーが頑張ったところで、あの教団にはオミとアカを信奉する人間がたくさんおり、オミとアカは彼らの中から代わりを見つけ出す。

 

支配する側には常に財や権力をはじめとした強さがあり、服従する側はその強さによる利益を欲して彼らに従う。そうして従った人間は支配する側に従順で、どこかで反発しても支配する側の庇護で得た豊かさを忘れられず、結果として支配する側の束縛を離れてもなお彼らのルールに縛られようとする。自分から進んで縛られに行く姿は時に滑稽に見えるけれども、当の本人にとっては生死をかけた一大事。なりふり構わず行けるところまで行き、ロバートはRMFという男を車で轢いて殺したし、リズは自分で自分を損ない、エミリーは教団が探していた奇跡を起こす女性を自分の手で死なせる羽目になった。彼らの行動は法律や道徳といった社会のルールから見ればところどころ異常だ。

 

人間同士の対立はよくある話だけど、この映画では上下関係が出来上がっていて、服従する側はその上下関係を克服できない。対等というものがどこにもないのだ。唯一、第二章は夫婦を軸にして展開されているけれど、帰ってきたリズが夫に見せる献身はどこまで行っても手ごたえがなく、彼女にとっての暴力としてしか機能しなかった。互いに尊重も信頼もない関係はただの暴力だ。結果として自分の人生をまともに切り開くことなく、彼らは皆自分にとって暴力として機能する人間に従い続け、最後は人生の主導権を手放してしまった。

 

他人に自分の人生を明け渡して楽な生活を送っても、常に不安が付きまとう。服従する側は常に自分を支配する誰かの顔色を見ながら生きる毎日で、そこに自我の発露なんて認められない。その不安を打ち消すためにさらに無茶な献身や忠実さのアピールに励むだけ、何一つ自分のためになることはない。

 

この映画の人間関係のアンバランスさはお互いを素直に認めることはとても難しいと考えさせられるものだったし、そのアンバランスな関係にには服従する側も望んで従っているところがあるのだと気づかされる。どこか不思議で現実感がない話の連続。それでも見入ってしまったのは生きていれば体験する人間関係のアンバランスさにリアリティを感じたからだろうか。