憐みの3章 映画感想 (ネタバレ含む) ①

今日は映画を見てきた。ヨルゴス・ランティモス監督の映画をあと少しで見逃すところだったので、ちょっと焦っていた。なんとか公開期間中に見れたので良し。

 

エマ・ストーンが出ているので今回も彼女の演技を楽しみ。というわけでざっくり感想を述べていこう。

 

「憐みの3章」 

 

第一章 RMFの死

 

(あらすじ)

主人公はロバート・フレッチャー。金髪で妻であるサラとの二人暮らし。子供はいない。仕事では上司の命令に忠実な男である。しかし、自分が常に上司であるレイモンドに従ってばかりの人生に鬱屈としたものを抱え、ある日とうとうレイモンドと仲たがいをしてしまう。

 

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この章は、白いシャツにRMFという刺繍がされた男がある大きな家に来訪するところからスタートする。場面転換で夜の交差点、金髪の男がある車を狙って、いきなり追突事故を起こす。突然の出来事に見ていた私は置いてけぼりになるが、主人公ロバートのラストに関わる大事なシーンでもある。

 

それから事故で負傷したロバートが家に帰り、いつも通りに過ごす様子が描写される。決まった通りのお酒、決まった時間に読むべき本。ロバートの生活はがちがちに管理されている。オフィスで電話がなった。対応するロバート。15時に上司のところへ行くよう指示されているが、午後は現場に顔を出さないといけないと断る。しかし、「私なら現場をキャンセルする」という電話相手に押され、ロバートは上司に会う予定を優先した。

 

呼び出しを受けた先で待っていたのは上司のレイモンド。部下であるロバートを可愛がっている様子だが、「もっと太れと言ったはず」「アンナ・カレーニナは読んだか?」など、やたらとロバートの私生活に口を挟む。おまけにウォッカを所望するロバートにウィスキーを押し付けるところも。ロバートの意志は無視してひたすら自分の考えたことを繰り返させたり、ロバートが自分に従っていないか監視しているような気さえしてくる男。それもそのはず、レイモンドはロバートの私生活まで管理していて、事あるごとにロバートの人生に干渉しているのだ。

 

上司と親しい間柄と言えば聞こえはいいが、ロバートに対する干渉が異常でこのやりとりだけで結構気持ち悪かった。プライベートでも上司からジョン・マッケンローの壊れたテニスラケットを贈ってもらったり、何かとレイモンドから気に掛けられているロバート。そのためかロバートもレイモンドに逆らえないらしく、彼の指示に従ってしまう。反面、レイモンドに縛り付けられる自分に嫌気がさしているようで、とうとうレイモンドが下したある命令を拒否することに。

 

それはもう一度交通事故を起こすこと。冒頭であった事故がレイモンドによる指示であることが判明すると同時に、人を殺しかねない命令を指示し、それに従おうとするレイモンドとロバートの関係がただの職場を超えた異常なものであることが明示される。しかし、一度失敗したうえに、無茶苦茶な命令に人を死なせることはできないと固辞し、レイモンドとロバートの気味の悪い主従関係は終わりを告げた、かのように思えた。

 

レイモンドはロバートに車も家も好きにしろという捨てセリフを吐いて彼の前から姿を消す。ロバートはようやく自由を手に入れたがここから彼の苦難が始まる。レイモンドとの関係が打ち切りになり、妻であるサラに今までのことを暴露したのだ。自分たちの出会いから結婚に至る全てがレイモンドの指示によるもの。愛はあると言っても夫から聞かされる衝撃の事実にサラは絶句。今までの生活すべてがまやかしだと聞かされた彼女は忽然と姿を消す。

 

驚くべきはロバートにはサラという奥さんがいるのだが、彼女との間に子どもはいなかった。最初はサラの体が原因だという風に作中で語られるが、実はレイモンドに忠実な部下だったロバート自身がサラに中絶薬を盛るなどして、子どもができないようにしていたのだった。ロバートが手に入れた裕福な生活はレイモンドに対する病的なまでの忠実さからくるもの。ロバート自身が何か手に入れたものは一つもなかった。

 

こうして新しい人生を送ることになったロバートだが、上司であるレイモンドとの関係が終わったので、今までのオフィスにいることはできない。新しい仕事を探そうとするが、レイモンドのコネがない彼はもともと来ていたオファーすらなくなり、一気に転落していく。そんなロバートはあるバーで女性をゲットしようと奇妙な振る舞いを繰り返す。手を痛めたふりをして失敗したので、今度は足を痛めて自分をいたわる優しい女性とのつながりを手に入れたロバート。この時出会った女性がエマ・ストーン演じるリタだった。

 

リタとの出会いで少しはレイモンドから自立できたかと思っていたが、ディナーに誘ったところ彼女が来ない。連絡を入れるとどうやらリタが交通事故に会ったことが判明。病院に見舞いに行くが、ストレッチャーで見覚えのある男が搬送され、リタがいる病室からレイモンドと彼のお付きの女性が出ていくところを目撃するロバート。

 

リタの病室にはお見舞いの花が花瓶に生けられている。彼女の安否を気遣い、暇つぶしに本でもとアンナ・カレーニナを差し出すと、リタの会話から非常に聞き覚えのある内容が返ってくる上に、アンナ・カレーニナは読了したばかりだとまで言われる。ところどころ既視感を覚えるロバート。リタがトイレに入っている間、花瓶の花に添えられたメッセージカードを見ると、そこにはレイモンドとお付きの女性の名前が書いてあった。リタのバッグから彼女の車のカギをとり、ロバートはリタの家に入る。豪華な内装の家、机の上にある紙には食事の内容や習慣を事細かに書いたものがあった。おまけに二階に上がるとかつて自分にも贈られたものと同じジョン・マッケンローの壊れたテニスラケットがあった。リタは自分と同じようにレイモンドに管理されている。そう確信したロバートだが、彼の取った行動は驚くべきものだった。

 

なんと事故で搬送され、意識不明の重体であるRMFを誘拐し、そのまま病院の駐車場で彼を轢いたのだ。それも一回だけではなく何回もだ。RMFはもちろん死亡。ロバートは車に乗って逃走。一体どうなるんだと思った矢先、見えてきたのは大きな屋敷。そうロバートはあのレイモンドのところに向かったのだ。扉を開けて出迎えるのはレイモンドのお付きの女性。ロバートと女性は強く抱きしめ合い、さらにはレイモンドもロバートを歓迎する。一度はレイモンドに逆らい、自分の意志で人生を選んでいくかのように思えたレイモンド。しかし、人生の転落を味わった彼が選んだのはもう一度レイモンドに忠実な人間になることだった。彼は私を失望させないと知っていたと言い放つレイモンド。服従をやめた人間が選んだのはもう一度強さをもった人間に跪くこと。こうして第一章が終わる。

 

あまりにも奇妙な上司と部下の関係。一見まともそうな主人公ロバートの常軌を逸した献身がこの話の主軸だと思うが、見ていて気持ち悪いことの連続だった。主人公の人生の主導権を握っているのは彼の上司。その上司もロバート自身を大事にしているのではなくロバートをどこまで操れるかに終始こだわっているようにも思える。そしてロバートが嫌だと言えばまた他の誰かを従わせる。それができるくらいの力をレイモンドは持っているのだ。法律や道徳なんぞ関係ないと言わんばかりの暴力的な関係。これがいきなり最初に出てくるのがこの映画。最後は肝心のロバートがレイモンドに屈することを自ら選ぶエンディング。しかし、映像が凝っているのと、音楽や演出もあって、見ているときはずっと画面に向かっていたから不思議だ。こういう感じで奇妙で訳の分からない人間模様が3章分ある。