小説「哀れなるものたち」 若干のネタバレあり

今日ようやく小説「哀れなるものたち」を読み終わった。

 

映画を見てからというもの、少しずつ読んで最後まで目を通すことができた。ベラという女性をめぐる男性たちの姿。しかし、これはマッキャンドルズの視点から見たもので、ベラことヴィクトリアとゴッドウィンから見た話は違うものになる。

 

マッキャンドルズとゴッドは最後親友のようになった。しかしベラ(ヴィクトリア)は違うという。小説は一ページごとに手の込んだ仕掛けがなされていて、読んでいてとても楽しかったというのが感想。

 

19世紀の大英帝国を支配した社会的な価値観からの脱却、第一次世界大戦の衝撃、それ以降の新しい世界について、ベラ(ヴィクトリア)のたくましさは見るものを勇気づけるけれど、彼女がベラとしてもっていた(マッキャンドルズ視点の)情愛の豊かさはなくなってしまったように思える。

 

これは私がベラ(ヴィクトリア)よりもこの小説の大半で語り部として振舞ったマッキャンドルズに共感しているからというのが大きい。手紙という形でベラの成長に一喜一憂したゴッドとマッキャンドルズ、手紙で自分の旅路を伝えながら戻ってきたベラ。三者三様の意思はどのようにして混ざり合ったのだろうか。

 

ラストのどんでん返しはすさまじいが、過去の自分について”何も知らず”生きてきたベラとマッキャンドルズと結婚してから改めてヴィクトリアという名で生きた女性は違うように見える。

 

彼女の人間についての葛藤は脚注によって強く補完されている。作者アラスター・グレイが冒頭から最後まで隅々まで心を砕いた作品。映画を見るまでこういう作品があるとは知らなかった。この小説のつくりの細かさ、構成のすばらしさ、作中で語られる産業革命以降の人間の苦楽。

 

これはぜひたくさんの人に読んでほしいと思う。まだ一度しか読んでいないから、どうまとめていいか分からないけれど、この本を読んで感じたものはとても大きい。久々に読書を楽しむことができて、読むたびに心が晴れ晴れとした。

 

誰が言っていることが本当かは分からないけれど、ゴッドウィンは非常に愛情に満ちた人だと思う。この小説はゴッドの力強さに支えられている。